バイアスについてのお話

※ このページは、司書が自己学習した内容をまとめた自習ノートです。
疫学研究の専門家によるものではありません。各項目の詳しい内容は参考資料をご参照ください。




バラツキとバイアス

 バラツキは「量」、バイアスは「質」に関わるもの、と考えるとわかりやすいです。
「3割打者」といったら、野球では1流選手です。でも、10打数3安打のバッターと100打数30安打のバッターでは、後者のほうが信頼できます。こうした数に関係する問題が「バラツキ」です。
 一方、高校野球の「3割打者」と大リーガーの「3割打者」では、当然後者のほうが1流です。これは比較する「質」の問題です。このようなことを「バイアス」といいます。バイアスが存在する場合、どんなに対象を増やしても結果に変化はありません。


いろいろなバイアス

バイアスには様々な種類があり、そのそれぞれに名称がついています。
ここではそれらの名称や分類はさておいて、具体的にどんなバイアスが生じうるかを書いていこうと思います。


検診に来ている人と来ていない人を比較する場合に起こるバイアス

まめに検診を受ける人のほうが、健康に対する意識が高い。
進行の早い疾患に罹った人は、進行の遅い疾患にかかった人よりも、検診で疾患を見つけられる可能性が低い。
また、放置しても問題ないかもしれない疾患でも、検診で異常が見つかれば治療する可能性が高い。
早期発見した時、その後の治療有無に関わらず、当然その時点からの生存期間は長くなる。
→「検診を受けている人は予後がよい」というデータが得られたとしても、それが上記のようなバイアスによる「見せかけ」である可能性があります。


比較試験や症例対象研究のサンプルを集める時に生じうるバイアス

(ランダム化されていない比較試験の場合)
無意識に研究者の主観が影響し、有意な結果が得られそうな患者を多く選択する。
ボランティアによる集団や、自主参加による集団は、年齢・性別・地域性など様々な項目に偏りが生まれやすい。
途中で死亡してしまった人や受診しなくなってしまった人が対象から外れてしまう。
試験途中で研究から脱落してしまった人がいると、最後まで続けられた人とそうでない人の差が結果に影響してしまう。
→対象団体に様々な点で偏りが生じているため、普遍的でない結果が得られてしまう可能性があります。


実際に調査や研究を行う際に生じるバイアス

病気になっている人のほうが、原因について自分で思い巡らしているため、記憶が鮮明である。
研究者が、無意識のうちに試験や調査に対する姿勢を対象群によって変えてしまう。
 ※これを防ぐために、検査者や分析者、被験者にもどちらがどちらか解らないようにしておく方法(盲検化)があります。
対象が研究者に気に入られようとしたり、状況を否認する傾向にあって、必ずしも真実を話さない。
→都合のよいサンプルや回答が多くなってしまい、結果が陽性に傾いてしまう可能性があります。

調査した研究の統計を読むときに生じるバイアス

お酒を飲む人と飲まない人を比較して追跡調査をすると、お酒を飲む人は飲まない人に比べて肺がんに罹る率が高くなる。
これは一見すると、飲酒が肺がんを引き起こしているように見えますが、実際にはそうとは限らない。
実は、お酒を飲む人は、飲まない人に比べ、タバコを吸う人の率が高い。
逆にお酒を飲まない人は喫煙率が低い。タバコが肺がんを引き起こしているとすれば、当然、飲む人の方が罹患率が高くなる。
→実際には関係のない2つの事柄(飲酒と肺がん)が、隠れた第3の因子(タバコ)によって、因果関係があるように見えてしまうことがあります。

検査の結果が論文に与えるバイアス

試験で思っていた通りの結果が出れば、研究者は意欲的に論文執筆に取り組む。
新しい発見や、はっきりとした結果がでているほうが、論文としても見栄えよく、雑誌編集者の受けもよくなる。
結果的に、陰性の結果よりも陽性の結果の方が多く発表され、雑誌にも掲載される。
製薬会社が自社製品に都合の悪いデータを隠蔽していたとされる事件も過去に起こっている。(パキシル事件)
→陽性の結果や、新しい知見を優位とする研究の方を多く発表されてしまいます。

レビューやメタ分析に生じるバイアス

一般のレビューは、著者が自分の考えに沿って参考文献を採択しているため、どうしても内容は著者の考えによってしまう。
メタ・アナリシスによる分析や、システマティックレビューの作成には、そうした偏りが生まれないように過去に得られたデータを網羅的に収集しているが、 先述のように論文が出版されている時点でバイアスがかかっているので、それを収集して得られた結果にもバイアスがかかってしまう。
→出版されやすい内容のものを多く収集してしまいます。

診療ガイドライン作成に生じるバイアス

診療ガイドラインの中には、作成委員の構成に偏りが見られるものや、文献検索の方法が記載されておらず網羅的収集がされているかどうか定かでないものもある。
また、読売新聞の調査によると、作成委員の9割が製薬会社からの寄付金を受け取っていたという報告がされている。

→学会や製薬会社の権威・利益が作成に影響している可能性を否定できません。

各資料を利用する側によって生じるバイアス

利用者は得られる結論を少なからず想定して論文を探し、読む。
→無意識のうちに、自分の考えに沿ったものだけを選んでしまったり、都合のいいように解釈してしまったりします。



 最後の項目は、疫学的「バイアス」からは少し外れてしまうかもしれませんが、 非常に大きな影響力を持っていると思えるので掲載しました。

 それにしても、これだけ多くのバイアスが存在しているのでは、これらをゼロにすることは難しいでしょう。
 とはいえ、EBMの手法に基づいて文献を読むとき、背後に隠れた第三因子を意識することは非常に重要といえます。


参考文献:
小田中徹也 『EBMとライブラリアン』― “What's EBM?"連載を終えて、中山健夫先生に聞く― 病院図書館 25(1・2) 38-44
福井次矢 リハビリテーションにおけるエビデンス 〜EBMの概念と具体的な手順〜 北海道理学療法士会誌  23 : 2-10, 2006.
大西丈二, 新保卓郎  臨床疫学の基礎知識  Diabetes Frontier, 16(1) : 89-94, 2005.
平輪麻里子 【医学情報】 診療ガイドライン 医学図書館 49巻4号 Page340 2002
中山健夫  『What's EBM?』「バイアス」勢ぞろい  病院図書館, 23(3) : 138-139, 2003.
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