EBMに関する話題


・研究デザインとエビデンスレベル
  研究デザインによるエビデンスレベルの分類
  各研究デザインの解説
   観察研究
    症例報告・ケースシリーズ研究、横断研究、コホート研究、症例対象研究
   介入研究
    ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験
   データ統合型研究:メタ分析など
    メタ・アナリシス、システマティック・レビュー、診療ガイドライン 

エビデンスに基づいた診療ガイドラインとは

「EBMのための〜」という図書、その信頼性は?

システマティックレビューと診療ガイドラインの寿命

「臨床研究(試験)情報検索ポータルサイト」と出版バイアスについて

バイアスについてのお話

EBM実践・勉強に役立つサイト集










研究デザインとエビデンスレベル


※ このページは、司書が自己学習したことを簡易にまとめて掲載しています。
疫学研究の専門家によるものではありません。各項目の詳しい内容は参考サイトをご参照ください。



研究デザインによるエビデンスレベルの分類


一般に診療ガイドライン等作成のため文献のエビデンスレベルを分類する際には、以下の様な基準において行います。
(参考サイト:診療ガイドライン作成の手順(Minds))

 高  T システマティックレビュー/メタアナリシス
 ↑  U 1つ以上のランダム化比較試験による
   V 非ランダム化比較試験による
   W 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究による)
 ↓  X 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)による
 低  Y 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見


 調べたい疾患におけるシステマティックレビューやメタアナリシス、診療ガイドライン等の2次研究があり、欲しい情報が載っていれば、その情報を参考にします。それらは数々の研究結果を集約してまとめられているので、個々の研究結果よりもエビデンスレベルは高いといわれています。
 しかし、知りたい情報に関するそうした2次研究が、必ずしも存在するわけではありません。1次研究を参考にする際には、各カテゴリーにおいて、信頼性の高いとされる研究デザインはある程度決まっています。

 各カテゴリーにおいて、参考になる研究デザインは以下の通りです。(参考サイト:The SPELL)

カテゴリー説明信頼性の高いデザイン
病因ある疾患の原因や,危険因子コホート研究
頻度ある疾患の罹患率や発症率横断研究,コホート研究
診断ある診断法の診断能 横断研究、RCT
予後ある疾患の平均生存期間などコホート研究
治療・予防ある治療法の治療効果や予防効果RCT
ある治療法による副作用や不利益な効果RCT ケースコントロール研究





各研究デザインの解説



研究デザインは、一般的に以下のように分類されます。

・記述的研究 ・分析的研究
  観察研究
   1)症例報告やケース・シリーズなど
   2)横断研究・コホート研究・症例対照研究など
  介入研究
   1)ランダム化比較試験
   2)非ランダム化比較試験
・データ統合型研究:メタ分析など

観察研究

症例報告・ケースシリーズ研究
稀な症例についての報告です。あたらしい疾患概念を報告する契機となります。ケースシリーズ報告は、稀に見る疾患の場合などに、治療と効果や有害事象との相関関係の仮説を示唆できることがあります。

横断研究(断面研究)(クロスセクショナル研究)
経過の観察ではなく、ある1時点について調査を行います。有病率や健康問題の保有率、検査の的中率などを調べる際に用いられます。インタビューや質問紙等による調査研究も含まれます。経過を追った調査をしないので、因果関係を証明することは出来ませんが、その可能性を予測する材料となることはあります。
 :群馬県中高年を対象にした花粉症に関連する要因についての横断研究

コホート研究
異なる生活習慣・疾患・治療などを経験した複数の集団を一定期間追跡し、発病率などを比較します。これから起こりうる事象について調査するため、前向き研究と言われます。 予後に関する信頼性の高いデータが得られます。
 注意すべきバイアス
 想定されている因果関係とは別の、第三因子を排除しきれない場合があります。統計上は味噌汁と乳がん発生率に因果関係があるように見えても、実際には味噌汁好きな人の食生活と発病率に関連がある可能性を否定しきれない、というようなバイアスです。

症例対象研究(ケースコントロール研究)
主に有害事象や稀な疾病の背景因子を探るための研究です。既に起こっている事象について過去に遡って研究するため、後ろ向き研究とも言われます。
 注意すべきバイアス
 現在調査可能な集団のみを対象とするので、途中で死亡してしまった、又は受診しなくなった患者は調査対象から外れてしまいます。  また、危険因子についての情報も、過去のことを調査するので対象者の記憶や証言に頼ることになったりもします。



介入研究


ランダム化比較試験(RCT)
 様々なバイアス(地域差・年齢差・研究者の主観によるものなど)が出来るだけ小さくなるよう、被験者を徹底的にランダムに、目的対象群と比較対象群に割り付けて実施しています。普通の比較試験よりも、エビデンスレベルの高い情報が得られます。

非ランダム化比較試験
対象を目的対象群と比較対象群に分けてはいるものの、その方法がランダム化の手順を踏んでいない(無意識なバイアスをなるべく排除できるような配慮がされていない)論文です。



2次研究


メタ・アナリシス (メタ分析)
同一テーマに沿った試験(主にランダム化比較試験)のデータを複数集め、統合して分析したものです。個別の試験でははっきりとした結果が得られなかった研究も、統合することでより確かなデータを得ることができます。
 注意すべきバイアス:  メタ分析において問題とされるバイアスに、出版バイアスがあります。メタ分析は主に出版された研究結果をまとめたものですので、未出版の研究(結果が陰性の場合は雑誌に掲載されにくい傾向がある)があると、真実とはかけ離れた結論が導き出されてしまいます。

システマティック・レビュー
 一般のレビューは、著者の主観に基づいて都合のよい研究結果だけを集めてしまっている可能性があります。システマティックレビューは、関連する研究結果を網羅的に収集し、メタアナリシスの手法を用いてデータを統合し、あるテーマについて現時点で解っていることを系統的にまとめたものです。有名なのは、コクラン共同計画によるシステマティック・レビューで、これらはコクラン共同計画が定めた厳密な方法によってレビューを作成しています。

診療ガイドライン
 過去に行われた膨大な研究のデータを偏りなく収集し作成の際にもバイアスが生じないよう配慮して作成されたものです。システマティックレビューと異なるのは、臨床の現場での判断を下す際、参考になるように作成されていることです。



参考資料:
Medical-Tribune 臨床医学文献の批判的吟味における研究デザイン判定のためのアルゴリズム
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 根拠に基づいた医療










エビデンスに基づいた診療ガイドラインとは


 ガイドラインはそれ自体古くから存在していますが、現在主流となっているのは、「エビデンスに基づいたガイドライン」です。ある疾患についての有効性に関する原著論文をPubMedで検索すると、膨大な量の文献が表示されてしまうばかりか、無意識のうちに都合のいい論文だけに目がいってしまう可能性も否定できません。
「エビデンスに基づく診療ガイドライン」は、EBMの手順にそって、過去に行われた膨大な研究のデータを偏りなく収集し作成の際にもバイアスが生じないよう配慮して作成されたものです。そういった意味では、過去の研究結果を総合的に理解するのに大変便利で、EBMの実践にも有用なツールであるといえます。

 ただし、国内におけるガイドラインにも、幾つか問題はあるようです。

 まず、全てのガイドラインが厳密にEBMの手順に沿って作成されてはいないことです。情報収集の手順・吟味の方法などが明記されていない、構成メンバーに偏りが感じられるものなどは、作成の際にバイアスが発生している可能性があります。また、基となるエビデンスに海外で行われた研究のデータが多く採用されており、日本における有力なエビデンスが少ないことも指摘されています。

 一般的な理解として『診療ガイドラインとはせいぜい60〜95%の患者に適応されるもの(Eddy DM  JAMA 1990; 263: 3077, 3081, 3084)』といわれています。ですから、基本的には診療ガイドラインは「医師個人の裁量権を規制するものではなく、かつ医事紛争や医療訴訟の資料さらには保険診療の審査基準などに使用されることのないようにしなければならない*」とされています。
 ただ、「医療行為についての判断根拠(説明責任)が問われることも認識しておく必要はある**」ようです。

(*)(**):がん診療ガイドライン EBMとその応用について
参考資料:平輪麻里子 【医学情報】 診療ガイドライン 医学図書館 49巻4号 Page340 2002











「EBMのための〜」という図書、その信頼性は?


 2004年、杏林大学医学部の図書館員が、「EBM」や「エビデンス」といった語を含む図書の質について研究発表しています。EBMを書名に含む医師向け図書(ガイドラインやEBM解説書は除く)における参考文献のPublication Typeから、エビデンスレベルの高い文献をどのくらい採用しているか検証、比較対象図書と比較しました。

 すると「EBM」や「エビデンス」を書名に含まない図書群の方が、エビデンスレベルの高い文献をやや多く採用していたという結果になりました

 この研究の結果だけから「EBM」を書名に含む書籍の信頼性を否定することはもちろん出来ませんが、書名中の「EBM」は、内容の信頼性とは必ずしも一致しないようです。

参考文献: 諏訪部直子:「EBM」を書名に含む国内臨床医学書の分析と評価,医学図書館,51(4),Page363-367,2004









システマティックレビュー、診療ガイドラインの寿命


 2007年の"How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis."(1) という論文によると、 1995年〜2005年までに発行された100件のシステマティックレビューが更新を必要としない(新たなエビデンスが報告されていない)平均期間は5.5年23%のシステマティックレビューが2年以内に更新が必要となり、そのうち15%は1年以内に、さらに7%は出版された時点で既に更新を必要とする内容となっていたということです。

 診療ガイドラインにおいては、 2001年出版されたJAMAの論文(2) によると、17件のAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ) のガイドラインのうち、7件は主要部分を、 6件はマイナー部分を更新する必要があり、更新の必要がないとされたのは3件のみでした(残りの1件は判断付かず)。 5.8年で半数のガイドラインが更新を必要とし、3.6年で更新を必要としないガイドラインは90%を割っていました。
 結論として、AHRQのガイドラインの3/4が更新を必要としていて、ルールとしては3年で更新することが望ましいとされていました。

 エビデンスレベルの高いとされるシステマティックレビューや診療ガイドラインでさえ、その内容はまさしく日進月歩、ということです。

(1) Shojania KG, Sampson M, Ansari MT, Ji J, Doucette S, Moher D. "How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis." Ann Intern Med. 2007 Jul 16

(2) Validity of the Agency for Healthcare Research and Quality Clinical Practice Guidelines: How Quickly Do Guidelines Become Outdated? Paul G. Shekelle; Eduardo Ortiz; Shannon Rhodes; Sally C. Morton; Martin P. Eccles; Jeremy M. Grimshaw; Steven H. Woolf JAMA. 2001;286:1461-1467.




「臨床研究(試験)情報検索ポータルサイト」と出版バイアスについて


 今年3月、国立保健医療科学院は「臨床研究(試験)情報検索ポータルサイト」が本稼動を開始し、国内3登録機関における登録臨床試験情報が一括検索できるようになりました。

 近年世界的な広がりを見せている「臨床試験登録」の動きは、「出版バイアス」の軽減を目的の一つとしています。「出版バイアス」とは、期待した結果(新しい治療法が従来のものより有効、など)が出たほうが研究論文として書きやすいし、雑誌にも載りやすい, 結果的にポジティブな結果を示す研究論文のほうが多く公表されてしまうことをいいます。さらには、英国では製薬会社が都合の悪い研究結果を隠蔽していたというスキャンダルも発生しています。ですから、メタアナリシスのようなエビデンスレベルの高い文献でも、必ずしも真実と一致しているとは限らない事になります。

 こうした事態をうけ、ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)は、2004年の声明の中で「臨床試験の事前登録をしていない試験はICMJE加盟雑誌(NEJMやLancet、JAMAなどの一流雑誌)に掲載しない」と宣言しました。ここから臨床試験登録の動きが世界的に広まり、日本でも「UMIN」が登録機関としてICMJEより認定をうけ、「UMIN」を含めた3機関が登録システムを実施しています。
 ただ登録は強制ではなく雑誌掲載の条件ともされていないので、国内雑誌の出版バイアスがすぐ軽減されるかどうかは明言できないようです。






EBM実践支援サイト


EBM Library 臨床医EBM実践サポートデータベース
国内外のclinical evidence,治療ガイドライン,学会情報などを収載。現在の治療水準やエビデンスが確認できます。

厚生労働省研究成果データベース
厚生労働科学研究費補助金等で実施した研究報告書を閲覧、検索できます。

The AGREE Research Trust (ART)(AGREE 共同計画)
Appraisal of Guidelines for Research &Evaluation(AGREE) instrument(ガイドラインの研究・評価用チェックリスト)がダウンロードできます。

AGREE-final.pdfガイドラインの研究・評価用チェックリスト 日本語版
医療技術総合研究事業(診療ガイドラインの評価に関する研究)」班が作成。上記の日本語翻訳版です。

コクランライブラリー
治療の有効性や安全性の情報として信頼高いシステマティックレビューを、抄録まで閲覧可能。(全文は読めません)

JANCOC (JApanese informal Network for the COchrane Collaboration)
コクラン共同計画に対する日本のネットワーク団体。コクラン・レビュー抄録集 日本語版1998年第4版を掲載。

国立がんセンター がん情報サービス
がんに関するエビデンスやデータの集計をみることができます。

国立がんセンターがん予防・検診センター予防研究部
多目的コホート研究班HP・がん予防開発と評価のHPなど、各研究プロジェクトHPへのリンクがあります。

臨床研究(試験)情報検索
国内3登録機関の登録試験情報が一括検索できます。

Drug Information Portal
米国の国立医学図書館が運営する薬剤情報ポータルサイト。


EBM勉強のためのリンク集


Evidence Based Medicine
日本大学医学部公衆衛生学教室EBHC研究班作成。EBMについて総合的に解説しています。

Medical Tribune「EBMのための臨床医学文献の読み方」
「“やってみよう”これは便利だ!」のコーナーに掲載。このほかにPubmed文献検索法なども載っています。

The SPELL
EBMについての解説、勉強会やイベントの紹介。教材や資料(ワークシート等)がダウンロードできます。

CASPJAPAN(Critical Appraisal Skills Programme)
EBMについてわかりやすい言葉で解説されています。

inserted by FC2 system